デジタルノマドは浅草の夢を見るか? 〜下町と「長期滞在」の意外な相性
浅草の風景が変わった
浅草の街を歩けば、外国語が飛び交うのは今に始まったことではない。しかし最近、少し毛色の違う外国人を見かけるようになった。
雷門の前で自撮り棒を振り回すのではなく、古びた喫茶店の隅で、真剣な顔でMacBookを叩いている連中だ。
彼らは「観光客」なのか? それとも「住人」なのか?
ここで登場するのが、最近巷で話題の「デジタルノマドVISA(特定活動)」である。今日は、この新しい黒船が、浅草の宿(ヤド)にどんな風を吹き込むか、少し妄想してみたい。
そもそも「デジタルノマドVISA」とは何か
まずは、行政書士として解説をしておく。2024年4月から運用が始まったこの制度。簡単に言えば、「ITツールを使って世界中どこでも仕事ができる外国人」に、「日本に6ヶ月間居ていいよ」とお墨付きを与えるものだ。
対象は年収1,000万円以上、国籍も限定されている、いわゆる「太客(ふときゃく)」である。
しかし、このVISAには行政書士として看過できない大きな特徴がある。
「在留カードが交付されない」のだ。
これが何を意味するか。彼らは日本に中長期滞在するのに、住民登録ができない。つまり、普通の賃貸アパートを借りるハードルが極めて高いということだ。日本の不動産屋は、住民票のない外国人には、なかなか部屋を貸さない(貸せない)。
ここに、浅草のビジネスチャンス、いや、「隙間」がある。
浅草の「宿」事情とノマドの苦悩
今の浅草の宿泊施設は二極化している。一泊数万円のラグジュアリーなホテルか、バックパッカー向けのドミトリーか。
だが、デジタルノマドが求めているのはその中間だ。半年間、ホテル暮らしをするのは富裕層でも気が滅入る。かといって、二段ベッドで半年過ごす歳でもない。
彼らが欲しいのは、「生活ができる宿」だ。キッチンがあり、洗濯機があり、そして何より「高速Wi-Fi」がある個室。
いわゆる「マンスリーマンション」や、設備を整えた「民泊(住宅宿泊事業法)」の出番である。浅草の場合、民泊はかなり規制が厳しいので、家具付きの短期賃貸というのが現実的な選択肢だ。
なぜ「六本木」ではなく「浅草」なのか
「IT系なら渋谷や六本木がいいのでは?」という声が聞こえてきそうだが、私はそうは思わない。
わざわざ日本まで来てリモートワークをする連中は、コンクリートジャングルなんて見飽きている。彼らが求めているのは「日本的な情緒」と「生活感」だ。
朝、法師旅館のような路地裏から出て、純喫茶でメールを返信し、昼は蕎麦を啜る。仕事が終われば、隅田川沿いをランニングし、夜は赤提灯で焼き鳥を齧る。
そして何より、浅草には「銭湯」がある。
言葉が通じなくても、裸で湯に浸かれば、そこには一種のコミュニティが生まれる。これぞ、最強のローカル体験だ。
最新のガジェットで武装した外国人が、ケロリンの桶で湯を浴びる。そんな光景こそ、彼らが夢見る「クールジャパン」ではないだろうか。
浅草の大家さんへ
もし、浅草界隈で空き家や、稼働率の悪い民泊施設を持て余しているオーナーがいれば、一度「中長期滞在向け」への転換を考えてみてもいいかもしれない。
家具家電付き、光熱費込み、そして「英語対応の契約書」。これさえあれば、浅草は世界中の放浪する仕事人たちにとっての聖地になり得るポテンシャルを秘めている。
江戸の昔から、浅草は旅人やよそ者を受け入れてきた街だ。帯刀した侍が、ノートPCを抱えたノマドに変わっただけのこと。
新しい制度に、下町の懐の深さを組み合わせてみる。そんな相談なら、いつでも乗りますよ。