法人設立は行政書士の業務か?
これから行政書士業務を始める方向けに書いているので、内容が少々難解です。悪しからず。
法人設立は司法書士の業務
会社の設立の手続き、つまり登記は、法務局で行う。法務局は司法書士の主戦場だ。私たち行政書士が法務局へいくのは履歴事項証明書や印鑑証明書を取得するか、帰化の手続きくらいだ。実際、法人の設立に関しては、時折、行政書士の中にも業際を踏み越えるので、やめた方が良いという先生方もいる。会社の設立は業際を犯すと考える行政書士がいるのは、登記が司法書士の独占業務だからだ。
しかし、私の事務所では毎月4,5件の設立業務を行う。これから行政書士事務所を開業する皆さん、行政書士を目指そうという皆さんが、ネガティブに捕らえて、モチベーションを下げてもいけないので、その点を明らかにしておこうと思う。
司法書士の独占業務は司法書士法の3条に定められている。
司法書士法第3条抜粋 (業務)
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
1項で登記手続きの代理は司法書士の独占業務と定めている。この条文には、行政書士法第1条2項で定める行政書士法の業務とは違い、有償、無償の区別がない。つまり、無償だからやって良いというものではない。どんな理由をつけても一切手を触れてはならないというところは認識しておいてほしい。なぜ、ここまで強調するかというと、実際に逮捕者が度々でているからだ。士業間の業務の線引きに係わることを業際と呼ぶ。業際の理解は重要で、しっかり身につける必要がある。他士業と協業するにあたっての役割分担の指標であり、守ることが他士業へのリスペクトでもある。
次に2項では、「法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類の作成」があげられている。この条文だけを読むと、設立登記に必要な書類は司法書士にしか作れないかのようにも読める。登記に必要な書類というのは、会社法と商業登記法に定められており、申請書がそれにあたる。設立には、定款や設立のための議事録が必要だが、商業登記法は手続法であり、添付する書類を明示しているに過ぎない。その、作成根拠を定めているのは会社法であり、いずれも備え付けが義務付けられている。登記のためだけに作る書類ではない。従って、行政書士法で1条2項で定められている「権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成すること」で対応が可能な業務だ。
司法書士の方がワンストップ
それなら、行政書士に頼むより、司法書士の方がワンストップじゃないかという意見がでてくるだろう。実際、司法書士にページではそういう意見も時折みかける。た、会社法をしっかり学んだ司法書士に頼むべきであるといった記事もある。実際、その面だけ見ればその通りだ。
それでも、行政書士は積極的に関与すべき
それでも、行政書士はむしろ積極的に法人設立に関与すべきだ。少なくとも以下のケースでは必ず関与すべきである。
- 許認可業務である場合
- 外国人が起業するケース
- 設立前に行政許可がいるケース
1は建設業、産業廃棄物など許認可業務など、業務に許認可がいる場合だ。定められた要件があり、定款に記載されている他、誰が役員に名を連ねるかも重要だ。新設会社での申請については、設立のときから関与すべきだ。とんでもない遠回りをすることになる。
2.にはビザの問題がある。ビザの要件には、500万以上の投資というのがある。これを満たさず、250万づつ二人で投資した会社で在留資格がとれなかったという相談があった。その会社を捨てて一からやりなおしたことがある。ちなみに、500万というのは最低資本金であって、500万ではそもそも資金が足りないような事業に資本金500万で設立しているケースも見られる。
3.は医療法人やNPOなどがあたる。法務局にたどり着く前に、事前に役所の許可が必要だが、これは「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類」にあたる。独占業務である。その延長線上にある設立なので、積極的にやれば良い。たまに、行政許可をやろうとする司法書士がいるが、それこそ業際を超えている。
このように、法人の設立に必要な書類は、登記のためだけに使う書類だけではない。顧客の利益のためにも行政書士は積極的に関与すべきなのだ。
他士業の先生方は大事にしよう
ただ、登記は司法書士の独占業務である。その点は明らかなので、間違っても会社の登記に関するアドバイスなどしないことだ。わからないことは司法書士の先生に尋ねれば良い。インターネットの記事では、他士業をさげすむような記事を時折見かけるし、会のレベルでは丁々発止をやっているのだが、実際の現場では、他士業とのギスギスやっているわけではない。むしろ協力し合っているのが現実なので、これから行政書士になられる方は、是非他士業の先生方とのパイプをたくさん作ってください。