角打について考えてみる

角打が流行りである。

角打ち とっくり

最近では、安く飲める立ち飲みも角打ちと呼ばれるようだが、本来の意味は”その場で飲める酒屋”である。学生時代に、カップ酒を買い、店の一角で魚肉ソーセージなんぞをかじって一杯やったなんて記憶があるのだが、最近の角打ちは、どうやら様子が違う。おしゃれな専門店の片隅で、お酒の解説を聞きながら有料試飲をするとか、日本全国の日本酒の利き酒をするようなお店が増えている。私が住んでいる浅草にはどちらのタイプのお店もあるので、同じ角内とはいえ随分違うなぁと思いながら眺めている。だが、あまりに見た目が違うので、何か違いはないのか、どんな許認可がそれぞれ必用なのか、行政書士としては気になるのである。なぜ、”その場で飲める酒屋”を角打と呼ぶのかは、このブログの趣旨ではないので、ウィキペディアでも読んでおいてほしい。

酒屋なので酒販免許がいる

酒屋なので当然酒販免許が必用である。店頭で販売するためには、酒販免許のなかの「一般小売」という免許を取得する。つまり普通の酒屋さんの免許が必用である。もう一方で、”そこで飲める”というところに許可がいるのかどうかである。そこで問題になるのが飲食店営業の許可である。

飲食店営業許可とは

おつまみと日本酒

飲食店の許認可をだしているのは保健所だ。飲食店の営業許可には、通常の飲食店が取得する”飲食店営業許可”と、少し簡易な”喫茶店営業許可”があるが、アルコールを提供する場合はもれなく「飲食店営業許可」が必用である。つまり、酒屋が飲食店営業許可さえとれば、角打ちはできるということになる。だが、よくよく考えてみると自分が買ったお酒をどこで飲もうが、マナーの問題はともかく、人からとやかく言われる筋合いはなさそう気がする。例えば、コンビニのイートインで缶ビールを飲むのはどうなのか?結局、どういうときに飲食店営業許可をとらなければいけないのかである。

飲食店営業許可について

飲食店の営業許可については食品衛生法が定めている。食品衛生法の目的は「食品の安全性の確保」、「衛生上の危害の発生の防止」、「国民の健康の保護」である。誰を対象にしているかといえば食品等事業者である。食品等事業者が誰を指すのかは、第三条に定められていて、その定義は長いのだが、長い分だけ食品に係わる事業者はほぼカバーされている。その中に「調理」という項目があるので、当然、調理を伴う飲食店は対象である。だが、昔ながらの角打ち酒屋は調理をしない。売ったお酒をそのまま渡すのである。であるなら、当然許可は不要なはずである。一方、グラスに注いで、時にはチーズのつまみなども提供するようなおしゃれなお店の場合、ただ、グラスに注ぐだけ、切って小皿に載せるだけでも調理である。従って飲食店営業許可が必用だ。その昔、お酒を量り売りしていた時代がある。角打ちでも、一升瓶からコップに注いで飲ませてくれるような店もあった。今、これをやろうとすると飲食店営業許可が必用だ。

これが結論ではあるのだが、酒屋が店内に飲食コーナーを設けてお酒をだすためにはハードルがある。飲食店がお酒をボトルのまま販売する場合も同じである。

食品衛生法第54条

都道府県は、公衆衛生に与える影響が著しい営業(食鳥処理の事業を除く。)であつて、政令で定めるものの施設につき、厚生労働省令で定める基準を参酌して、条例で、公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならない。

食品衛生法第55条

前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。

参考: 食品衛生法(e-gov法令検索) 

酒屋と飲食店

酒屋の前で角打ち

今度は酒税法の問題である。お酒の販売の許可をとるには様々な条件があるが、需給調整という難しい名前の要件がある。平たく言うと、税収が減らないように、量を調整するということである。競争が激しすぎると値段が下がりすぎるだろう、税金が減るかもしれない。一方、高すぎて買う人が減るとやはり税金が減るかもしれない。そのためにお酒の流通を国が管理している。昔は、地域にどれくらいの人が住んでいるかによって、酒屋さんの数が決まっていた。住んでいる人の数で量を決めていたのだ。ところが、時代の流れでお酒の販売ルートも変わってしまった。地方では、スーパーの大型店に車で行って、まとめ買いをするだろう。そうすると、地域に住んでいる人の数でお酒の販売量を決めても意味がない。

この要件が、職業選択の自由を定めた憲法22条に反して無効だと争われたことがある。この判決では、法律自体は有効だが、法律の文言通りに機械的に制限を求めるのではなく、例外を積極的に認めることを求めた。そのため、この運用方法は少しずつ変わってきた。インターネットでお酒が買えるのもその結果だ。(最高裁判所平成10年7月16日第一小法廷判決)

法律自体はそのまま残ったので、「酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う接客業者」については、税務署長ではなく、国税局長の判断が必用になる。

個人経営の飲食店が酒類の販売免許申請したときに、通常よりも時間がかかるのはこのためである。 

酒税法第11条

税務署長は、酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与える場合において、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持するため必要があると認められるときは、製造する酒類の数量若しくは範囲又は販売する酒類の範囲若しくはその販売方法につき条件を付することができる。

法令解釈通達第10条 製造免許等の要件/一般酒類小売業免許の需給調整要件(2)

酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う接客業者(接客業者の組合等を含む。)。ただし、国税局長において免許を付与等することについて支障がないと認めた場合を除く。

参考: 食品衛生法(e-gov法令検索) 

飲食店は消費者

お酒の免許の相談に来られるかたの大半が勘違いをしているのだが、飲食店に酒類を卸すのに卸免許は不要である。業務用なので「卸す」と思われがちだが、卸免許は酒販免許を持っている相手にお酒をうるときに必用になる。酒屋に売るときだ。飲食店は消費者の扱いである。つまり、お酒は小売店をでた瞬間に消費されたことになる。あとはそれを調理して提供するか、自分で飲むかは酒税法における流通管理外なのだ。

<一般的な流通>

  

<飲食店経由>

飲食店で飲む方が流通が1つ増えるので高くなる。しかし、飲食店が小売店を兼ねた場合、その飲食店は、他の飲食店より安く入手できてしまう。それでは公正な競争が行われないということが問題になるのである。

そこで、飲食店と酒屋を兼業するような店舗の場合、店頭における扱い、その仕入れルート、全てを分離することを求められる。例えば、同じインポーターからワインを仕入れたとしても、2つの取引口座を作るように求められる。最低でもそれぞれ伝票を分けてもらう必用がある。もちろん、小売り用に仕入れたものを、飲食用に提供することはできない。

仮に、同じ場所で酒販店と飲食店を経営していても、酒販免許をもつ企業と飲食店を経営する企業が別であれば、違う人格である。一方が仕入れて、一方に売るということが可能になるが、それでも、店内の分離が行われているという点についてはしっかり説明を求められる。

角打ちには二種類ある

つまり角打ちには二種類の営業形態があるということだ。お酒だけを売って、一切調理をせず、店頭の場所を貸している場合、そして、飲食店免許も酒販免許も取得している場合である。需給調整の理屈から言えば、グラスに注いでくれるお店ではそれほど安く飲めるわけではないので、角打ちイコール安いとは限らないということになる。個人的には、旨いワインが飲めれば、どちらでも良い。昔ながらの酒屋さんでさくっと飲むのも楽しいし、うんちくを聞きながら旨いワインを選ぶのも楽しい。せいぜい飲み過ぎないようにすることにする。

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