江戸風情あふれる浅草の伝法院通りはどうなるのか(使用貸借のお勉強)

伝法院通り

浅草に伝法院通りという通りがある。私の通勤路でもある。伝法院の手前で仲店を横切る道である。江戸の町並みを再現した言われる通りだ。途中から右手に畳一畳強の鉄製のコンテナのような形をした店が並ぶ。同じ形のボックスが、同じ色に塗られ、計画的におかれたことがわかる。バッグ、おもちゃ、衣料、唐辛子、古物なども売られている個性的な商店街である。浅草伝法院通り商栄会という。浅草商店街連合会のホームページにも紹介されている。



騒動がもちあがった

昨年(2021年)、騒動がもちあがった。おかれているボックスが路上占拠だということで、台東区の区議会が、道路法違反として建物の撤去・立ち退きを求める訴訟提起を決定してしまったのだ。さらに、過去の賃料の支払いも求めるという。そして、今年(2022年)に入ってついに法廷闘争に突入した。実は、2014年頃からすでに紛争にはなっていたようである。それが、2021年、最終局面にはいったということだ。ことの経緯は以下の記事をご覧いただきたい。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20211220-OYT1T50290/

この騒動について、どんな結末になるのか、考えてみようと思う。区議会議員や近隣の方からの話も少しは聞いてはいるが、基本的には報道の範囲の情報なので、情報不足は否めない。その上で、勉強のために、法律上での結末を考えてみようというわけだ。

主張を整理してみる

区側の主張は2点である。

  1. 建物を撤去して立ち退け
  2. 過去の賃料を支払え
つまり、商店会は不法占拠だという主張だ。

一方、商店会の主張は、1977年浅草公会堂の新築に当時の区長から無料で使って良いという許可をもらったというものだ。つまり民法593条に規定された使用貸借である。

立ち退きは避けられないのか

さて、この情報をもとに、法律的にはどのように帰結する可能性が高いのかを検討してみる。まず、立ち退きである。区側は、当時の資料がないと言っているが、住所表示がされており、使用貸借を追認する事実行為があったのではないかと推定される。


住居表示の決め方は、「住居表示に関する法律」に定められており、その手続き方法を決定をするのは市町村の議会である、台東区は特別区であるため、市町村と同じ扱いになる。つまり決定方法は区議会による。そこで台東区条例はどのように定めているのかというと、以下のとおりである。

区長は、第1項の届出(新築または親切の届出)若しくは前項の申出があつたとき、関係人若しくは関係行政機関の長から住居番号が実態に照応していない旨の通知があつたとき、または実態調査等により住居番号をつけ、変更し若しくは廃止する必要を知つたときは、ただちに必要な措置を講じなければならない。(東京都台東区住居表示に関する条例)


この条例の通りに手続きされたとすれば、路上にボックスをおき、借主から届出もしくは申出があり、その上で区が住居表示をつけたことになる。そうなると、区長が「使っていいよ、賃料はいらない」と言ったという話もあながち嘘と決めつけることもできなさそうだ。それでは退去しなくて良いのかというと、そうもいかない。使用貸借に関する条文は、平成29年の民法改正で書き換わっているので、契約当時の改正前民法の条文を読むと、以下のとおりである。

当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。(改正前民法第597条2項)


この条文のとおり、期間の定めがないケースの場合、当初の目的にしたがって、利用して稼いだあと、もしくは、それ相当の期間が経過したときは、区は返還請求ができることになる。1977年からほぼ50年が経過しており、十分な時の経過はあったと考えて良いだろう。つまり、裁判所が「使用貸借です」と認めたとしても、区は返還請求ができるということで、結局は立ち退きはさけられないということになる。ちなみに、資格試験でも頻出の論点だが、公用地の時効取得については、公用地が黙示的に廃止されていなければ認められる可能性はない。店は、明らかに道路の上に置かれており、道路が廃止されたという判断がされることはないだろう。(最高裁昭和52年4月28日判決)

過去の賃料はどうだろう

もう一つの区の主張、過去の賃料の支払いはどうだろう。使用貸借であれば、払わなくても良いということになりそうだが、そうもいかない。すでに2014年に、区は退去について商店会に申込みをしていたことになる。それを根拠に区は2014年以降は不法占拠であると主張できる可能性がある。債権の消滅時効の完成猶予と更新については、記事の範囲では、裁判上の請求も支払督促もなさそうなので、考慮しないこととする。そうすると、少なくとも現在の債権の時効、5年分の賃料(旧法でも定期給付金のため5年)について賃料相当損害金(使用損害金)の支払いを命じられる可能性ある。勝ち目はなさそうである。

これも昭和の名残

毎朝通る道もであるし、名前は存じ上げていないが、朝の挨拶をする方もいるので、気の毒に思わなくもないが、私の知識の範囲では、商店会側には勝ち目はなさそうである。こんな契約(あったとすれば)があった1977年私は二十歳である。すでにいろんなことが整備されているつもりになっていたが、昭和の時代は、東京ですらまだまだこんなやりかたが通じたようだ。これもおおらかな古き良き時代の名残かもしないが、古き風習や、やりかたも風情や情緒と同様に消え去っていくと考えるしかなさそうである。



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