昨今、サムライは商売なり

池波正太郎の名作剣客商売のテレビドラマの冒頭に「昨今、剣客は商売なり」というフレーズがあった。そのフレーズを借りると、「昨今、サムライは商売なり」とでも言っておこう。サムライつまり、士業のことである。

浅草寺裏手にて

かつては刀を筆に変えてなどというイメージもあったようだが、いまや士がつく国家資格は数知れず、最近は民間資格でも士を名乗るので、「それがどうした」というくらい軽い。それでも、行政書士は一応、誰が呼んだか知らないが八士業の末席を汚している。八士業ってのはなんだというと、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士、司法書士、海事代理士。社会保険労務士、行政書士をさしてそう呼ぶ。業務のためであれば、職務上請求書を使って、他人の住民票や戸籍が取得できる資格である。かつてはあたりまえだったのかもしれないが、個人情報の管理が厳しい今のような時代になると、なんとも恐ろしい立場にある。

士業というのは、すべてではないが独占業務がある。言い方を変えると、ほかの人がはいってこれないショバがあたえられているのだ。侍に置き換えれば、お上から知行をあたえられているといってもよい。ヤクザの世界なら、境内をあずかってる親分から一角をつかわせてもらってるってとこだ。それじゃ、ショバがあれば稼げるかってなるとそうもいかない。ショバを与えられて稼げないとどうなるか?親分から「おまえはなんでこんなに稼げねえんだ?」とこっぴどくやられる。

今の士業の親分は国である。我々士業も、登録するときにショバ代ならぬ登録料を納め、毎月、会費を納め、研修のたびに研修費を納めるのである。稼げなければ、ショバをお返しして撤退することになる。

行政書士会に登録すると研修がある。研修に参加した瞬間「先生方」と話しかけられ、妙に小っ恥ずかしい気持ちになったものだ。そこで先輩の行政書士に言われたのが、「先生方、社交的になってください」。試験に受かれば、飯が食えるかも知れないと思っている人が少なからずいるということだ。実のどころどうなのかというと、食える人は食えるし、食えない人は食えない。

実際にその業務についたことがないと、どの資格を目指すかが、今ひとつわからない。だから、ネットにはいろんな情報が出回る。そして、その情報というのは、大体試験の難易度によって稼げるかが変わってくるような意見だ。よくあるのは「行政書士程度の資格じゃ食えない」というやつ。ところが、必ずしもそうでもない。例えばである。相続を扱うとき、弁護士と行政書士はどちらの単価が高いかというと、そりゃ弁護士である。だが、どちらがたくさん扱っているかというと、行政書士だろう。資産が10億円ある人もいれば、5000万程度しかない人、1千万という人もいる。10億ある人より、1億以下の人の方が多いだろうから、そうなると手続き単価も安い方がよいに決まっている。つまり行政書士にも仕事はある。というより、多い。私のあつかった案件では、900万の現金を遺贈するという遺言書が一番安い相続額だった。もちろんこれは一例でしかなく、行政書士でも高い単価設定で仕事をとる人はいる。ちなみに、相続は、司法書士はもちろん、税理士も扱う。競合の多い分野だ。

まぁ、何が言いたいかといえば、所詮、試験に受かって登録をしても、ショバをもらって仕入れができたに過ぎず、並べた商品が売れるかどうか、食えるかどうかはセンス次第。「昨今、剣客ならぬサムライも商売なり」なのである。

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