代書屋、AIに代書させる
また落語の話で恐縮だが
落語ネタが続いて恐縮だが、もう少しお付き合いいただきたい。前回の記事で『代書』を聴き直してから、どうも頭から離れない話がある。
昔の代書屋の看板は、なんといっても字だった。役所に出す書類も、手紙も、すべて筆で書く。字が下手な代書屋など、商売にならなかったはずだ。『代書』の代書屋も、客の話に振り回されながら筆を走らせている。
筆の腕から、PCの腕へ
ありがたいことに、今は字が上手くなくても代書屋が務まる。かくいう私も、達筆とは言いがたい。役所の書類も契約書も、いまやほとんどがパソコンで作る時代だ。つまり、筆の腕がPC操作の腕にかわった。
そして最近は、もう一段かわりつつある。AIである。下書きを作らせ、条文を調べさせ、文章を整えさせる。代書屋の腕は、筆からPCへ、そしてAIを使いこなす技術へとかわってきた、ということになるのだろう。
それでも変わらないもの
では、代書屋の仕事そのものが変わったかというと、そうでもない気がする。
いかに話を聞き出すか。ここは米團治の時代から何も変わっていない。依頼人の頭の中にあることを引き出さなければ、どんなに字が上手くても、どんなに便利な道具があっても、書類は書けない。
堂々巡りに耐えるのも同じだ。同じ話が三周目、四週目に入っても、どこかに大事な事実が埋まっているかもしれない。そう思って聞き続けるしかない。AIは書類を作ってはくれるが、依頼人の話を三周聞いてはくれない。
AIに頼むと、立場が逆転する
ところが、実際にAIに代書を頼んでみると、妙なことに気づく。AIは、こちらが何をしたいのかをきちんと伝えないと、的外れなものを出してくる。目的は何か、誰に出すのか、何を決めていて何を決めていないのか。それを説明しないまま「いい感じに」と頼むと、当然いい感じにはならない。
つまり、AIに頼むときは、こちらが依頼人の側に回るのだ。やりたいことを延々と語り、途中で「やっぱりこっちで」と方針を変え、あとから「そういえば」と条件を付け足す。気がつけば、『代書』の客と同じことをしているのだ。ただ、AIのは、決して嫌な顔をしない。代書屋の鑑のような存在だ。
AIを使うようになって、少しだけ依頼人の気持ちがわかるようになった気がする。うまく説明できないもどかしさ、というやつだ。次に要領を得ない相談を受けたときは、もう少し優しくなれる、かもしれない。
やれやれ、AIに行政書士としての心づもりを学ぶことになるとは、まさに主客転倒といったところですかね。